奥の細道―マンガ日本の古典 (25) 中公文庫

松尾芭蕉と云えば、「古池や蛙飛びこむ水の音」「荒海や佐渡に横たふ天の河」「五月雨を集めて早し最上川」などの名句があり、いずれの句も、動と静、鳥瞰（マクロ）と虫観（ミクロ）、巨大物と極小物の対比、そしてこれらの要素における視点の相互転換などが限りない感興を呼ぶところですが、本書を読んで、彼の詩魂が旅による異質なものとの出会いあるいは親しい者との一期一会の過ごしといったものによって生み出されたことが非常に良く理解できました。実に見事な原作のマンガ化です。「そんな俳諧師たちがより多くの収入を得るためにはなんといっても出座や評点の機会を多く得ることである･･・そのため金持の連衆やパトロンたちのご機嫌伺いに汲々とする俳諧師も多く･･･世間からは“座敷乞食”とさげすまれる例も少なくなかったそれはさておきこの頃の芭蕉は実に精力的に旅に出て俳諧のほかに優れた紀行文を書くことになるその目的はもちろん「蕉風俳諧」の確立にあったことはいうまでもないが･･･その裏にはこうした俗世の煩わしさにたまらない嫌悪を感じ･･････俗世から逃れようとして旅だったのではあるまいかつまり芭蕉は人にこびへつらいご機嫌を伺うことが大の苦手な人物だったと推察される」（100～101頁）「しかしいずれにせよ悠久の時の流れという視点でとらえればこの世のすべてが旅人ってことさ月日は百代の過客にして･･･行き交う年もまた旅人なりじゃよ･･････」（255頁）そう云えば、最近「旅」をしていません。どっかに行きて～。